北村薫+星野智幸 「ここをこうすれば、小説ができあがる」』レポその2

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【北村】(私は)2年間。星野先生は3年間。もうそろそろ終了。
 学生からの質問を素材にしつつ進めていく。
【北村】文芸専修での指導について、先生として(1年)先輩の星野先生のやり方は。
【星野】懇切丁寧が売りの1対1の面談と、学生が書いた短編をアップしてもらって学生同士で合評する形式。教師があまりコメントしない楽な授業をしていた。
★ここで北村先生がCDを持ち出す。
 文豪トルストイが作曲したワルツヘ長調?との事。再生される。ピアノ曲。
【北村】このCDは神保町で見つけてつい買った。ふだんは紙でコミュニケーションしているが、映像や音(でなければ紹介できないもの)を介して表現について語ったりする。星野先生が言ったように創作を揉むこともする。定着するまでにどんな事を?  
【星野】クラスの雰囲気によって違います。
【北村】読んでもらって感想を出してもらう。この切り口おもしろい、この読み取りっておもしろいなど。読む経験も。
【星野】JAZZとか聴いて聴いて自分からあふれるぐらいにならないと。書くのも同じ。自分が飽和するぐらい徹底的に読んでいってほしい。
【北村】ある作家の話。何も考えず短い物を書いてほめられたが、いざ小説を書こうとすると書けなくて、ある時期まで書けなかった。
【星野】
【北村】人に見せられる物が書けるという意識はなかった。いい読者でありたいとは強く思っていた。ある年までずっと書けなくて、ずっと書けと仰っていた編集者がいて書くことがずっとたまってきて書けた。大学生の時は、小説をたくさん読んできて、小説に対する畏怖(?)があった。書ける意識はなかった。
【星野】(大学の時は)遊びのような、実験的な文章を書いていた。
★ここから(文芸専修?)学生からアンケート?用紙を読んで答えるコーナー?
【星野】(紙を見て)読んできた作品についてどうでしょうか。というのが多かった。
【北村】ちょっとずれるかもしれないが「素直だな」と思った。私の時は反発していた。批判を受けたりするのがつらい。自負の心が傷つく。ところが、わりあい、一般的に言うとすんなり受け入れてくれた。
【星野】勇気あるなと思った。(学生の時は)自分は自分の書いたものに何か言われるとへこんだ。内輪の気の合うひとなら見せられるが、そうじゃないとちょっと。同人誌をやったけど、二人だけにコピーして、同人誌じゃないですね(笑)合評で30人とかに集中砲火を浴びるのを見て、勇気があるな。と。ただ作品が世に出るともっと・・・なので免疫をつけておくのはいいのかなと。小説の内容というよりは皆さんの覚悟の問題ですが。
【北村】2部という出版形態はおもしろい(笑い)
【星野】最初は3部だったんですが2部に減りました(笑い)
【北村】学生の時は直されるのがいやでした。助詞ひとつでもいやだった。
【北村】(紙を見て)おふたりとも温厚でいらっしゃるが作品を読むと毒もちらほらと見られる。講義を聴くと良い先生だと思うが、でもあんな事書いてる(笑い)と困惑します。作品と実生活の視点は同じでしょうか。       
【星野】ふつうに暮らしている分にはふつうの人。内面が変わっているわけではないが、いろんなきしみは持っているのでその辺が作品に出ている。普段の生活に始終出ると支障を来すので・・逆よりは、すごい変わっている人が書く小説は平凡みたいな、よりは(笑い)いいかなと。 
【北村】毒の部分はある。ないと書けないというわけじゃないが。人間なので、いろいろ~ありますよね。
【北村】(紙を見て)物を書く時は誰に読んで貰いたいと思って書くのでしょう。最近それが判らなくて筆が進まなくて困っています。
【北村】私は自分のため。作家って本当に食えない。すごく食えない。エンタメ系の何冊も本で出てるひとでもそうで、ものすごい過酷なアルバイトをしている人の話も聞く。夢の印税なんて書かれて誤解を生んでいるところもありますね。
【星野】最近1冊で100万部200万部当たる小説が1年に1冊も2冊も出てくる。みんなが100万部200万部は無理なので、エンタメ系でダメなら純文学系はもっとダメなので。デビューしたころに尊敬していた方に初めて会った時に「小説家は生活保護すれすれだからね」と真剣に言われた(笑い)編集者にも「なんか仕事持ってる?(本屋の仕事があると言うと)仕事ないひとには小説家になったらまず就職してって言ってる」と言われた(笑い)
【北村】ソレをふまえて、まず売れるかというか、まず書けない。そのひとがわるいわけじゃなく、そういうタイプだと思う。私の場合はある編集者に言われて、自分の好きな物を書くというレベルから始まった。幸い、書きたい物を書き、それを読んでくれる方がいた。授業でもそう。高校の授業に行って、生徒に「先生、なんで先生になったんですか」と聞かれ、目をじっと見て「君に会うためだよ」と言ったというのを聞いた。「本当だな」と思う。その「君」はいろんな「君」ですけどね。教員て、重松清さんの『舞姫通信』に先生が「ぼくは、覚えていない君たちを忘れることはないんだ」と言った箇所があって、正直言うと先生は20代のころはみんな覚えてるけど30代になると覚えられなくなる。卒業生が「覚えてますほら~で」といじわるに言っても判らない。そこに心がないわけじゃなく、覚えていない君を忘れることはない、と。私がそこに座っていたらその私が受けたい授業をする、小説も結構同じ、私はそう。逆にメッセージ性や政治性が強かったら別ですが。
【星野】僕も自分が重要で、書く時は考えない、書く前と書いた後は考えるが。合評の授業をしているとき誰に向けて書くかというのは気にする。気にしすぎるとそのひとの書く必然性がなくなっちゃうので。どっちかというと自己本位になってほしいなと思う。
【北村】自己本位で言うと、学生の自分の年齢とかけ離れた事を書いているとおかしいなと思って、空想で書いている分にはいいんだけど、当事者としてみるとおかしいということはありますね。
【星野】モチベーションが自己本位というだけであって、書いている中の世界については登場人物がすべて自分というわけではない。北村先生も女性の視点でたくさん書いてらっしゃるが。そういう自分のわからい人物を設定して、なんとか自分で近づこうとするのは小説では必要になってくるかも知れない。
【北村】(紙を見て)学生が中年男性の気持ちをつづった文章を書くと、学生の共感は得られても、中年男性の視点から見るとずれてると感じた場面があると、自分の年齢や環境と違う登場人物には壁があるんだろうか、乗り越えるこつはあるか、人経験を重ねて年を取ってからの方がいい作品を書けるのか、若い頃の感覚を取り戻すのが難しいか。
【北村】今でなければ書けないものもあるし、今思っていることとある程度年のいったひとと思っていることが違うことはある。
【星野】(紙を見て)授業の中で出ている小説の傾向についてどう思われますか。
【北村】
【星野】学生生活が素材。読み解くタイプが多い。
【北村】(紙を見て?)先生は最初から長編を書いていたんですが。
【北村】4・5枚書いて疲れたなあ、卒論が100枚かいと思った。
【星野】長いのは書けなかった。学生時代は2部の同人誌と演習の課題。演習は完成させなきゃいけないけど、同人誌の方はいつも「続く」になってて(笑い)卒論は100枚ぐらい書かなきゃいけなくてどうしよう書けないなと思って
【北村】続くって?(笑い)来期に・・
【星野】30枚の連作短編にしましたけど、本当に長いのはデビューしたのですね。
【星野】(紙を見て)手書き・パソコンの内容ですね。北村さんはワープロですね
【北村】私はワープロが出だしたころなんですよ、宮部さんもそうなんですけど。授業出てる方はよく分かると思いますが、字が汚いんで、ちょっと経つと自分でわからなくなる。ただ分からなくなるならまだしも、構成をめちゃめちゃするので、自分の原稿が気持ち悪い、だから長いものは書けなかった。ワープロが出て、「直してもきれいなままだ」
直すことがいやじゃなくなった。
【星野】卒論の時にワープロが出たので、手書きで書いたことはあまりない。メモを取るには手書きの方が早いので・・・パソコンでもなんでもいいんじゃないかと思いますけどね。
【北村】だいたい取材のメモとかだいたいなくすんですよ。(笑い)だいたい頭に入っていて、プロットとか紙に書いたりしないんですよ。
【星野】思いついた事に喜んですぐ忘れてしまうから、書いとかないとだめですよ。きれいなプロットではなくてランダムなメモなんですけど。
(つづく)
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開場の写真とかが載った前振りの話はこっち
北村薫+星野智幸 「ここをこうすれば、小説ができあがる」』レポ
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